東洋医学を勉強しようと思ったとき、必ず理解しておかなければならないのが「陰陽五行(いんようごぎょう)」という考え方(哲学)です。
私は学生のころ、卒業研究のことを考えたとき「東洋医学をテーマに研究したい」と早い段階から思っていました。それを教授に伝えたところ「東洋医学をやるんだったら、陰陽五行からやらなきゃ。基本の哲学だよ。」と強く言われたのを覚えています。
恥ずかしながら、当時の私は「陰陽五行」なんて聞いたこともなかったし、東洋医学といっても「ツボ」くらいの認識しかありませんでした。そのため、陰陽五行から勉強することもナンセンスだと思っていたし、そもそもどこから手をつけていいかわからず、心底困りました。
しかし、陰陽五行をきちんと勉強して、普段から思考のツールとして使えるようになった今では、本当に勉強してよかったと思っています。
今回は、陰陽五行の基礎となる「陰陽論」についてまとめていきます。
陰陽は『ものごとの基本』
一言で言えば、「陰陽(いんよう)」とは「ふたつのもの」の関係を象徴する言葉です。
例えば、
右があれば左がある。
上があれば下がある。
男があれば女がある。
光があれば影がある。
「正しい」があれば「誤り」がある。
「善い」があれば「悪い」がある。
と世の中のありとあらゆるものは、「ふたつのもの」の関係で表すことができ、逆に私たちはこうした「ふたつのもの」の関係でしか物事を考えることしかできません。
あるものが間違いであると言えるのは、正しいものが何であるか知っているからこそ言えるのです。
私たちは常にふたつのものに「分ける」ことで「分かる」、つまり理解することができるわけです。
これが「陰陽論」の基本的な考え方です。
この考えが後に「五行説」と出会い、やがて「陰陽五行」として万物を貫く哲学として発展していくことになります。
太極(太乙)とは
「陰陽」を基本に考えていくとき、その「陰陽」という「ふたつのもの」には“大本”があります。この大本のことを「太極(たいきょく)」とか「太乙(たいいつ)」といいます。
このことを図として示しているのが有名な「太極図」です。
この図をみると、ふたつの「勾玉(まがたま)」から成り立っているのがわかります。左の白の勾玉と右の黒い勾玉が混ざり合うことなく、大きな円を描いているのです。このとき、白の勾玉が陽、黒い勾玉が陰と表しています。
図の大きな円、すなわち太極(太乙)は、ものごとが陰陽という相対に分かれる前の絶対的な大本なので、「神」の概念につながります。
また、太極図では白い勾玉の中に黒い点、黒い勾玉の中に白い点があり、これは「陰の中にも陽があり、陽の中にも陰がある」ということを表しています。一見、ひなた(陽)に見える場所でもそこに石があれば影(陰)があるし、日陰(陰)に見える場所でも隙間から光のあたるところ(陽)がある、という自然の摂理が表現されているのです。
陰陽は、常に移り変わる(相対的かつ可変的)
「陰陽」とは「ふたつもの」の関係を表すものですが、それは相対的であり、可変的です。単なるレッテルではないということが重要です。夜が昼になり、昼が夜になるということです。
具体的にみていきます。
男と女で「陰陽」を考えるならば、拾ってきた猫の見分け方を考えてみればわかります。オスは性器が外に出ていて陽(ひ)にあたるので陽、メスは性器が内にあって陰(かげ)にあるので陰となります。これを男女にの性別に当てはめるということです。
ここで「陰」である女性をとりあげてみれば、その中にまた「陰」と「陽」が表れてきます。一般に、人体では背中を陽、腹側を陰とみます。つまり、女性でも背中は陽になるのです。
また、年齢に注目してみると、少女とお爺さんを比べれば、少女は若く活発なので陽、お爺さんは不活発(落ち着いている)ので陰になります。
このように、陰陽はレッテルではなく、相手次第で相対的に変化するものなのです。
人体の臓器の陰陽
人体の臓器の陰陽は、大きく捉えて原則としての陰陽は変化しません。
よく使われる言葉で「五臓六腑(ごぞうろっぷ)」という言葉がありますが、この「臓」と「腑」がそのまま「陰」と「陽」に当てられています。
五臓 | 肝臓 | 心臓 | 脾臓 | 肺臓 | 腎臓 |
五腑 | 胆嚢 | 小腸 | 胃 | 大腸 | 膀胱 |
表では「六腑」ではなく「五腑」になっていますが、「六腑」は経絡理論に由来しややこしいので、ここでは「五臓五腑」として考えます。
「臟」と「腑」はそれぞれ「月(つきへん)」をとると、「蔵」と「府」になります。「蔵(くら)」はものをしまっておく場所のことであり暗い、一方「府」は大阪“府”というように人が多く集まる都のような場所を示し、明るいのです。
そのため、「臓」を「陰」、「腑」を「陽」として考えられています。
臓器そのものの形状を比べてみても、「臟」はぎっしりと細胞が詰まった暗い蔵のようであり、「腑」は食べ物や水分などが集まっては流れていく袋のようになっていることがわかります。
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